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広島地方裁判所 昭和41年(ワ)577号 判決 1967年12月22日

原告 直江睦

<ほか一名>

右二名訴訟代理人弁護士 椎木緑司

被告 株式会社藤田組

右代表者代表取締役 藤田定市

右訴訟代理人弁護士 森山喜六

主文

被告は原告直江睦に対し金一〇万円及びこれに対する昭和四一年二月七日から右支払済にいたるまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

被告は原告姜二俊に対し金一〇万円及びこれに対する昭和四一年二月七日から右支払済にいたるまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告等のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は各一〇分し、その一を被告の、その余を原告等(各原告の支出したものは当該原告)の負担とする。

事実

当事者双方の求めた裁判及び事実上の陳述は別紙のとおりである。

≪証拠関係省略≫

理由

原告直江が別紙目録第一記載の建物を所有しこれに居住し、原告姜が別紙目録第二記載の建物を所有し、これを居宅兼もやし製造に使用しており、被告が右原告等の建物所在地に隣接する広島市南観音町一、一一八番地、一、一一六番地の三地上に福山通運株式会社の鉄筋コンクリート造四階建共同社宅三棟の新築工事を請負い、昭和四一年一月二七日から同年二月七日まで右工事の基礎工事のため鉄筋コンクリート杭の打込みをなしたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、右杭打工事は、昭和四一年一月二七日から、同年二月六日を除き同月七日までの間概ね午前八時頃から午後六時頃まで一日二本ないし一五本の割合で杭経四〇〇、長さ二七米のもの九八本、長さ一四米のもの六本、計一〇四本をジーゼルハンマー二屯二〇〇を使用して打込んだもので、右工事中途昭和四一年一月三一日原告直江から抗議があったので、原告等建物に近い二棟の建物の各東側の一部を総堀基礎と称する建物を船型にして地盤上に浮かす工法に設計変更して右部分の抗打をとりやめ、その結果、原告直江所有の建物と約一八米以遠、原告姜所有の建物と約二四米以遠の箇所において杭打工事が行われたことが認められ、右認定を左右するにたる証拠はない。

被告施行の右杭打工事の結果、原告直江は請求原因四記載の原告姜は請求原因七、八記載の建物の損傷、井戸水の減少を生じた旨主張するところ、右主張にそう≪証拠省略≫は、右矢野鑑定人の屋根瓦のくるいは杭打ちに因るものではない旨の鑑定結果並びに鑑定人鳥海勲の杭打ちによる建物の被害は自然老朽と分離できない範囲のものであり、地下水位の変化は基礎工事による排水が原因であるとは認めがたいとの鑑定結果に対比し採用できない。したがって、右各建物の損傷及び井戸水の減少を理由とする原告等の損害賠償請求は失当であり棄却を免れない。

そこで原告等の、右杭打工事による騒音と振動に因る慰藉料請求につき考えるのに、本件のごとく他人居住地の隣地における工事施行者は、隣地の居住者に対しその平穏な生活に支障を及ぼすべき行為は極力これを避止する義務があり、他面被害者においてもその障害が、行為の性質、被害の程度等からある限度のものは、社会生活全体の向上、相隣者間の利害の調和の見地からこれを受忍すべきものと解するを相当とするところ、さきに認定した本件杭打工事の状況と、鑑定人鳥海勲の本件基礎工事は前認定の工法に比し騒音、振動を軽減しうべき他の工法があり、被告の右杭打工事により近隣者に感覚的に迷惑を及ぼしたものである旨の鑑定結果によると、右工事による騒音と振動によりうけた原告等の不快は、社会生活ないしは相隣者として前記説明の受忍すべき限界をこえたものと認めるべきであり、そして、原告等が右被害をうけるであろうことは被告会社工事担当者において予見可能であったというべきである。以上と、原告二名各本人尋問の結果と本件に表われた一切の事情を考慮すると、原告等は右騒音、振動により各自金一〇万円の慰藉料を相当とする程度の精神的苦痛を受けたものと認めるを相当とするから、被告は民法第七〇九条、第七一〇条、第七一五条により、各原告に対し金一〇万円づつ及び各これに対する履行期経過後である昭和四一年二月七日から右各支払済にいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。したがって、原告等の慰藉料請求は右の限度において認容すべきであり、その余は棄却すべきである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川茂治)

<以下省略>

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